現実逃避に今最もデストロイでガッデムな漫画家、梅澤春人のスーパーカー漫画『カウンタック』を読んでいたら、こんなことが書かれていた。「アメリカなんかでドラッグレーサーたちがスタート前に後輪だけフルスピンさせて、ものすごい白煙を上げながらタイヤを温めるんだよ。それがバーンアウト!」
ほほう、バーンアウトってそういう意味だったのか。俺はてっきりこっちのほうかと思ってたよ。
【燃え尽き(バーンアウト)症候群】
充実感に満ちて仕事に没頭していた人が,燃え尽きたように突然に陥る無気力状態。抑うつ・全身倦怠・頭痛・不眠などを伴う。
(三省堂「デイリー新語辞典」より)
……こっちのほうが合ってるような気がしなくもない。なぜなら『バーンアウト3』をやってる最中は充実感に満ちているのに、1時間も続けると耳の後ろの辺りがパチパチしてきて、やり終えたあとは口の中から何かが抜け出たような虚脱感を覚えてしまうから。ふっひゅわー(口半開き)。こんな状態で何かやる気を起こせというほうが無理。燃え尽きたぜ……真っ白な灰に……。
虎穴にブーストで入らずんば虎子を得ず
『バーンアウト3』はレースゲームである。アメリカ、ヨーロッパ、アジア各地の公道で開催されるさまざまなイベントをクリアしていくのが本作の目的だ。んなこたぁ見りゃわかる。車ゲーでやることといったら、車を走らせることくらいだ(数年前に車をホッピングさせるだけのゲームがあったけど忘れろ)。しかし、どう走らせるかはゲームによって大いに異なる。そして『バーンアウト3』もまた、既存の車ゲーとは大いに異なる走りが求められる。
ハイリスク・ハイリターン。それが『バーンアウト』シリーズを貫く絶対の思想だ。レース中、画面の左下にブーストメーターが表示されている。ブースト残量がある状態でR1ボタンを押すと、爆発的な加速力が得られるという仕組みである。これはほかの車ゲーでもよくあるシステムだ。
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| 火花を散らしてライバル車とわたり合う。プレイ後にどっと汗をかくゲームである |
ただ、このメーターは走っているうちに自然と増えたり、アイテムを取って回復させるようなものではない。メーター残量はプレイヤー自身の走りと直結している。リスクを負わなければリターンはない。メーターを増やすためには、死と隣り合わせの危険走行を行わなければならないのだ。対向車線を逆走したり、コーナーでドリフトしたり、登り坂でジャンプしたり、一般車両を接触すれすれでかわしてみたり……これらの行為を連続で行うほどブーストがたまっていく。対向車線でドリフトするなど、危険走行を組み合わせるとより効果的だ。
さらに今回は、ライバル車をつぶすことによって、ブーストメーターの最大値が4倍まで増加&回復する。これをテイクダウンと言う。ちんたら走っているライバル車に後ろから突っ込んで走行ラインを乱したり、横から幅寄せして壁にこすりつけたり、とにかく手段は問わないから敵車をクラッシュさせてやればいい。このテイクダウンの導入によって、本作は極めて過激なレースゲームになった。たとえ最下位に落ちても、テイクダウンをキメていけば上位にはい上がれるし、またトップで走っていても、常に下位のマシンにテイクダウンされる危険性をはらんでいる。ぶっつぶしまくってのし上がれ! ひとたび『バーンアウト3』を始めれば、緊張と興奮がどこまでも際限なしに加速していくのを感じるだろう。
恐怖とラブは表裏一体
不肖原田、幼い頃からレースゲームに魅せられて、ゲーセンでも家庭用でもひたすらプレイし倒し、「ユーゲー」誌上で何度もレースゲームの記事を書いてきたが、だからといって私生活でも走り屋だったりするかといえば、全然そんなことはない。むしろ平均的日本人よりもはるかに自動車から遠ざかった生活をしている。
もちろん自動車は好きだ。乳児期の俺は夜中でも眠ることなく泣きわめいていたが、ドライブに連れて行くとぴたりと泣きやみ寝入ったという(なんて手間のかかるガキだ)。子どもの頃から自動車ラブだったことは間違いない。ある日突然、神様が現れて「ギャルゲーのキャラなみに従順な美少女か、フェラーリのどちらかをプレゼントしよう」などと言おうものなら、俺は迷うことなくフェラーリを取るだろう。仮にもらえるのがフェラーリじゃなく、営農サンバー(農協で売ってた軽トラック)だとしても、だ。
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| クラッシュの瞬間。しかし衝撃を受けている場合ではない。ライバルを巻き込め! |
じゃあどうして自動車に乗らないのか? 金がないから……というのは言い訳にすぎない。世の中、貧乏でも死ぬ気で金を捻出して車に乗ってる人だってたくさんいる。本当のことを言うと、俺は心のどこかで自動車を恐れているのだ。子どもの頃に交通事故に遭ったのも影響しているのかもしれない。車を運転していると緊張と恐怖で頭がぐるぐるになる。これだけの質量を持った鉄の塊がこれだけのスピードで何かと衝突したら、人間なんて血の詰まった袋がはじけるように壊れちゃうんだろうな、などといらぬ想像してしまう。これは人殺しの道具だ! 燃料噴射装置付きの自殺マシーンだ!
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※『バーンアウト2 ポイント・オブ・インパクト』 ハード:PS2/メーカー:サミー/ジャンル:レース/発売日:2004・4・1/価格:6090円(税込) PSの『スーパーライト1500シリーズ バーンアウト』は無関係な別のゲーム。 |
しかしその恐怖のドキドキが、ラブのドキドキと結び付いて俺を魅了する……のかもしれない。吊り橋理論みたいな話か。この辺は精神科医にでも相談したいところだが、強制入院させられそうなのでやめておこう。
そんなこんなで話は『バーンアウト3』に戻ってくる。車ゲーはリアルな映像を求めて進化してきたが、あるひとつの現象に関してはリアルな描写を避けてきた。車はぶつかれば壊れるという、ごく当たり前の現象を。つまり多くのレースゲームには恐怖のドキドキが欠けていたのだ。
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| コースの多彩さや豊富なBGMも魅力のひとつ。まあ、楽しんでる余裕はないけどな |
おそらく、倫理的な問題よりも技術的な問題のほうが大きいのだろう。モノが壊れるさまをCGで描き出すのは非常に難しい。ただ形を変形させるだけならまだしも、ボンネットやドアなどの部品も含めて自然に壊そうと思ったら、かなりの手間がかかってしまう。
だが『バーンアウト3』はそこで手間を惜しまず、執拗なまでにクラッシュ描写にこだわっている。クラッシュした瞬間にカメラが切り替わり、バラバラになって吹き飛ぶ自分とマシンの姿を眺めるのは奇妙な気分だ。車の壊れ方だけでなく、音響面での演出もうまい。ヘッドホンを付けて大音量でプレイしていると、下手なホラーゲームよりも強烈なショックを受ける。ほかの車ゲーならクラッシュしても「チッ」と舌打ちするだけのことだが、本作では心臓がデトネーションを起こして破裂寸前。マシンも砕け、たまりにたまったブーストメーターも砕け、気がつけば走馬燈さえ見えてくる。転がる石のような俺の人生が……。
この恐怖のドキドキがあるからこそ、ハイリスク・ハイリターンというコンセプトが生きてくるのだろう。事故りたくない。だけど、危険な走りをしなければ勝てない。緊張と興奮と恐怖と熱狂と……複雑な感情を抱きながら反対車線を時速300キロオーバーで逆走すれば、きっと別の世界が見えてくる。ていうか見えた。光が。あれは私を導く光ですか? いいえ、対向車のヘッドライトです。

ちなみに補足しておくと、クラッシュは必ずしもネガティブなことではない。クラッシュ中にR1ボタンを押すと「インパクトタイム」が発動し、動きがスローモーションになる。ここで左スティックで吹っ飛ぶ自車の軌道を変え、後続のライバル車にぶつけてやると「アフタータッチ」となり、ブーストメーターを失わずに済むどころか回復さえする。
また、本作にはクラッシュ描写を生かした「クラッシュイベント」というモードも用意されている。スピードを競うのではなく、一般車両が行き交う交差点に突っ込んで大事故を起こし、被害総額を競うモードだ。乗用車や大型バスが次々と玉突き事故を起こし、大型トレーラーに積み込まれた材木が転がり落ち、自分の車は爆発炎上(これはクラッシュブレイカーという重要テクニックでもある)。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。このゲームの開発者はやはり尋常ではない。イカれている。
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| 車はすべて架空。車同士がつぶし合う公道レースゲームに協力する自動車メーカーもいないか…… |
国産レースゲーム危うし
ブーストとクラッシュの話だけで誌面が尽きそうだ。いかん。『バーンアウト3』の魅力はそれだけじゃない。本当に驚かされたのは、お手軽な操縦性だ。
ドライブシミュレータの分野では、実は日本よりもアメリカやヨーロッパのほうが強い。日本人がスーファミをやっていた頃、外人たちはIBM・PCやAmigaで本格的なドライブシミュレータを作っていたのだ。しかし、あえてリアルな操縦性を捨てて、誰でも扱えるようマシンの挙動を整えるのは苦手としている。ヤツらにはどう逆立ちしても『リッジレーサー』や『マリオカート』みたいなゲーム的レースゲームなんて作れっこねえ!
……はずだったのだが、『バーンアウト3』はその定説を覆した。洋ゲーなのにマシンが扱いやすい。スラロームもドリフトも超楽勝だ。もちろん、物理的には間違っている。これは嘘の挙動だ。しかし、気持ちのいい嘘でプレイヤーをもてなすことこそゲームの娯楽性とも言える。それを心得て日本のレースゲームを研究し、洋ゲーの豪快さと和ゲーの遊びやすさを両立させた『バーンアウト3』の開発者は、実にクレバーであると言わざるをえない。さっきはイカれてるとか言ってゴメン。あまりベタぼめすると嘘くさく聞こえるかもしれないが、『バーンアウト3』の登場でレースゲームは新たなステージに到達したとここで宣言しよう。諸君もこの革命に参加せよ!
Text by 原田勝彦(フリーライター)
(C)2004 Criterion Software Limited. All rights reserved. Burnout is a registered trademark and Takedown is a trademark of Criterion Software Limited. All other trademarks are the property of their respective owners.
※この記事は、雑誌「ユーゲー」2005年5月号(No.18)に収録された内容を再掲載しています。







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